かくてもあられけるよ

セミリタイアしてシェアハウスで暮らすノマドなミニマリストの株主優待日記

『ブレードランナー2049』に登場するウォレス社のインテリアが渋い

『ブレードランナー2049』はファン泣かせの演出が盛りだくさんだったが、セットの斬新さも前作以上にインパクトがあった。いくつか印象に残ったシーンを取り上げてみたい。

ウォレス社の内部空間がすごい

ナチスのトーチカか、土木構造物のようにマッシブなコンクリートの中に、ナトリウムランプのような黄色い光が差し込んでいる。太陽の動きを早回しするように、照明の角度が変化して、セリフをしゃべっている人の顔が暗くなったりする。ラヴの居室や、方形の島と飛び石が配されたホールでは、水面に反射した光が壁と天井にゆらゆらと模様を描いている。

 

殺風景なロスの街並みや刑事の部屋に比べ、宗教施設のように洗練されたインテリアがウォレスの富と権力を象徴している。序盤でレプリカントの製造番号を問い合わせる受付カウンターの風景からして、ただモノではない。建物内の黄色いシーンが出るたび「これはすごい」とテンションが上がってしまった。

 

水の張られたホールは、GearVRのメニューパネルが浮かぶホーム空間にちょっと似ている。新造レプリカントが、革張りの床の上にボトッと落ちてくる必要はなさそうだが、出産の痛みとか恐怖、儀式めいた雰囲気をうまく表している。

水面のきらめく部屋で、HMDでドローンの爆撃を制御しながら、微動だにせず部下にネイルの手入れをさせているラヴ様の迫力がすごい。狭い自宅でも、照明を白熱灯に代えて、水槽でも置いて真似したくなるようなインテリアだ。

 

ネタ元はコルビュジェの教会?

実在する似たような建築といえば、コルヴュジェのサン・ピエール教会あたりだろうか。打ち放しコンクリートの壁面を、太陽光を投影するスクリーンとして利用している。

 

ポール・ヴィリリオのサント=ベルナデット教会(Church of Sainte-Bernadette)も、夕日が差し込むとウォレス社のような空間になりそうだ。

 

2004年に森美術館で行われていたアーキラボ展で、この教会の模型が展示されていた記憶がある。弟子のジャン・ヌーヴェルが東京のオペラ劇場コンペに出していた案も、ヴィリリオを御影石で高級化したような雰囲気がある。

あとはアルド・ロッシのガララテーゼ集合住宅とか。長い廊下と列柱が、どことなくイタリアっぽい。

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ライトのエニス邸も再登場

2049でジョーの家のキッチンに、一瞬だけ旧作のインテリアが引用されていたようだ。ぼんやりしていて見逃してしまったが、いずれDVDが発売されたらじっくり観察してみたい。

旧作では、デッカードの部屋がフランク・ロイド・ライト設計のエニス邸で撮影されたことは有名である。といっても、当時はインターネットのような便利な情報源もなかったので、建築の写真集を見ていてネタ元に気づいたときは感激した。

 

2003年頃、ロサンゼルスを旅行する機会があり、真っ先にエニス邸に向かった。歩いて登ったら結構きつい坂だったので、できれば車で行った方がよい。当時はまだデジカメを買えなかったので、フィルム代を惜しみながらコンパクトカメラで撮影していた。

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作中での殺伐とした雰囲気に対して、本物のエニス邸はロスの高台から市街を望む豪邸である。内部も広くて、南米の遺跡のように荘厳な雰囲気がある。

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ヨドコウ迎賓館もブレードランナーっぽい

エニス邸は現在修復中で内部を見学できないようだが、似たような作品が実は日本にもある。神戸にあるヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)で、壁面の大谷石にエニス邸のような模様が控えめに彫られている。残念ながらこちらも平成30年まで修理工事で休館中のようだ。

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ブレードランナーのおかげで模様つきのコンクリートブロックが広まったのか、スターバックスのデザインにも使われていたりする。

実はシド・ミードも関わっていた

エンド・クレジットを何気なく眺めていたら、Concept ArtistにSyd Meadという名前が連なっているのに気づいた。その後、Special Thanksにも再登場していたから、同姓同名でも間違いでもなさそうだ。旧作ブレードランナーで独特の世界観を描き出した大御所シド・ミードが、2049にも参加していたらしい。

ウェブで調べたところ、シド・ミード手描きの懐かしいコンセプト画像が何枚か見つかった。例のカッコいいサインも健在だ。さすがに1982年のオリジナルほど描き込まれてはいないが、昔の着色されたアートワークは映画以上にワクワクするクオリティだった。

 

シド・ミードの作品集は邦訳されているが、学生時代は高すぎて手が出ず、美大の図書館に潜り混んでコピーを取っていた。COPICのマーカーを揃えて、プロダクトデザインっぽいスケッチを真似しようと練習したが、足元にも及ばなかった。2010やトロンのイラストも感慨深い。

Oblagon―Concepts of Syd Mead

Oblagon―Concepts of Syd Mead

 

2007年に来日して早稲田大学で講演会が行われたが、ターンエーガンダムの話ばかりだった。作品の迫力に比べて、本人はいたって平凡な大人しいおじいさんという印象を持った。

続編のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はリドリー・スコットへのリスペクトを表明しているし、シド・ミードがデザインに関わったとなれば、本作の映像クオリティにも納得がいく。監督をはじめ、裏方では若い世代のスタッフが大勢関わっているはずだが、各所に旧作へのオマージュが散りばめられ敬意が表されているようだ。

名作SF映画の30年後の続編というのも大役だが、ウォレス社のインテリアデザインは、建築やアート業界でも語り継がれそうな名作だったと思う。